井上奈良彦
(『啓林』高校英語篇連載原稿に加筆)
1. INTRODUCTION
本稿の目的はディベート活動(準備と発表)の様々な側面を概観することにある。そこから先生方に授業で使えそうなアイデアを一つでも多く提供できれば幸いと思っている。
ディベートを授業に導入することの困難さはよくわかっている。筆者は大学のESSでディベートを学んで以来ずっと研究を続ける一方、ESSの指導を務めて来た。ディベートの「試合」に参加する学生は準備や練習に膨大な時間を費やしている。大学の授業でも導入を試みているが、1科目(50名のクラスで週一回90分の授業を15週程度)では、ディベートの基本を説明した後、肯定側・否定側のスピーチを発表させるのがやっとのことが多い。反駁(rebuttal)や反対尋問(cross-
examination)は事前に対戦チームどうしで論点を教え合って準備させているが、なかなかさまにはならない。評価も苦労が多い。
大切なのは、ある問題について自分達で調べ、賛否両論を検討し、英語でスピーチを発表する、という活動を通じて学生が重要なコミュニケーション能力の訓練を受けている点である。この能力が「議論(argumentation)」の力である。
以下、3回の連載でおおむね次のような内容を扱うつもりである。(1)ディベートとは何か、(2)論題の選定、(3)ディベートの準備、(4)議論の分析、(5)スピーチの構成、(6)ディベートと倫理。
1.1. What is debate?
Debateという語は広義には、何かの問題について賛否両論を論じ合うことを意味する。車を買い替えるべきかどうかを検討したり、アイドル歌手の歌が上手かどうかを言い争うことも含まれる。アメリカのスピーチ・コミュニケーション学(指導要領のオーラル・コミュニケーションCはこの分野の影響を強く受けている)の考え方では、(1)明確な論題について(2)肯定・否定の側に立つ参加者が(3)公平な規則の下で(4)論理的な議論によって(5)第三者を説得しようとする過程、と定義できる。ディベートはまた、問題の賛否両論を考慮することによって蓋然的真理(probable
truth)を探求しそれを擁護する過程と見ることもできる。実社会では、議会や法廷での論争が典型的なものである。
1.2. Academic debate
アメリカのスピーチ教育では学校などで議論の訓練のために行うディベートをacademic debateと呼び、教育効果を上げるために様々なルールや教育方法が論じられている。西洋では古代ギリシャ以来ディベート教育の長い伝統がある。このディベートは日本には福沢の三田演説会での「弁論会」の訓練、第二次大戦直後の討論大会、そして近年の新たなブーム、と様々な導入が試みられて来た。
典型的なacademic debateの試合のやり方は、例えば、「日本は陪審裁判を導入すべし」といった政策に関する論題(resolution又はproposition)について肯定(affirmative)チームと否定(negative)チームがスピーチを交互に行う。まず、主要論点を提出する立論(constructive
speech)を肯定第1、否定第1、肯定第2、否定第2と行う(普通8分ずつ)。それぞれに3分間の反対尋問(cross-examination)が相手チームから行われる。次いで、反論・弁護を行う反駁(rebuttal
speech)を逆に否定側から初めて計4回行う(各4分)。最後に、審査員が講評と勝敗を口頭や審査用紙で伝える。
議論の訓練のために行うのであるから、参加者は肯定・否定両側の議論を準備し、一つのディベートの中では自分の信念とは無関係に籤などで決めた立場を最後まで守り通す。その立場になったつもりで行うrole-playと考えればよい。
1.3. Debate and oral communication
ディベートは「オーラル・コミュニケーション」ではない。確かに、ディベートは口頭で意見を戦わせる言語活動として、オーラルコミュニケーションの一つとして存在する。しかし、口頭発表はディベート活動の一部にすぎない。ディベート教育の本質は論理的な議論の力を養うことにある。もちろん、英語科の中で行うのだから、英語で論理的に議論する力を養うことにある。例えば、英語の文章の論点を理解・分析・批評する力を養う。また、自分の主張を論理的に組み立て英文で表現する訓練をする。口頭発表においても、原稿を用意したり、相手の発言やその反論をメモすることは不可欠である。ディベートは書き言葉の助けなしには成り立たない。
2. CHOOSING A PROPOSITION
良いディベートのためには適切な論題を設定しなければならい。論題は明確な問題を一つだけ含む肯定文で表す。正式には
“Resolved: That ... ”という表現で始める(「右、決議する」ぐらいの意味)。内容は、事実(fact)・価値(value)に関るものや行動や政策(policy)についてのものがある。例を挙げてみよう。
Resolved: That UFOs are spaceships from another planet.
(事実)
Resolved: That private universities are better than national
universities. (価値)
Resolved: That school uniforms should be abolished.(政策)
教室では、Should school uniforms be abolished?のように疑問文で提示してもよい。
論題の決定にはさらに次のような点に注意したい。
(1)The proposition should be controversial. 肯定・否定それぞれの側に有利な論点があって双方の勝ち目が同じぐらいになるようにする。“Resolved:
That the Giants will win the championship.”というのは、優勝の行方が決まってからではディベートの対象にはならない。
(2)The proposition should be neutrally worded. 用語は中立なものにする。“Resolved:
That Japan should ban the sale of harmful cigarettes.”では、タバコが有害だということを初めから認めてしまっていて肯定側に有利である。
(3)The proposition should indicate a change from the present
system. 論題は現状の制度や一般の考え否定するような表現にする。これよって、肯定側は現状を変革し論題を証明する責任を負い、否定側がそれに反対する、という立場が明確になる。
(4)The proposition should be suitable for the participants. 参加者の関心を引く問題で、資料調査や議論に必要な用語等を含めてあまり難しくないものを選びたい。逆に易しすぎると、勉強にも知的挑戦にもならない。授業では、リーディングやライティングの教材や他の教科で学習した内容との関連を考慮したい。
3. PREPARATION FOR DEBATE
この節では、ディベートをするための準備を論題が決まってから、実際にディベート(口頭発表)をするところまで追ってみる。各段階は必要に応じて何回も繰り返される。
3.1. Analysis of proposition
論題を教室で生徒と一緒に選んだ場合は既に分析はかなり進んでいるだろう。そうでない場合、生徒は与えられた論題を解釈し分析することを一からはじめなければならない。
3.1.1. Definition of terms
分析の第一歩は、論題中の用語を定義し論題を解釈することである。これは、単語の辞書的意味を調べるだけにとどまらない。
“Resolved: That the Japanese government should prohibit smoking in public
places.”という論題では、具体的に何がsmokingに当たるのか、public placesとはどういう場所を含めてどういう場所は含めないのか、などを考える。
3.1.2. Finding issues
肯定・否定の側にどのような主要争点(issues)があるかを検討する。政策論題についてはstock issuesと呼ばれる着眼点が用意されている。次の質問に肯定側はyes、否定側はnoと答えられるように論題を分析する。
(1)Is there a serious problem that calls for change?
現状の政策を変えないといけないほど重大な問題があるかどうか。問題の質的・量的深刻さを肯定側は論証する。
(2)Is the problem inherently connected to the present system?
新しいやり方を採用しない限り解決できないほど問題が現状の制度と深く結び付いているかどうか。
(3)Is there a practical plan to solve the problem?
論題の規定する政策を具体化し、技術・人材・資源などの面で実行可能性を検討する。実質的な議論のために、国会を通るかどうかや憲法違反かどうかは問題にしない。
(4)Would the affirmative plan solve the problem?
肯定側の計画が実行されたと仮定して、それが問題を解決する過程を検討する。
(5)Is the advantage of the plan bigger than its disadvantage?
政策には副作用としての不利益が付きまとう。否定側から具体的な不利益を提出し利益を上回ることを論証する。肯定側は利益の方が大きいことを論証する。
3.2. Research
ディベートでは客観資料に基づく議論を重視するので、資料調査が欠かせない。図書館等を使い、最近ではコンピューターネットワークの利用を含めて資料調査の方法を訓練する役割がある。英語の授業ではリーディングの教材を利用したり、賛否両論が併記してある文章を生徒に配布することが考えられる。
3.3. Building cases
一つのディベートで使う肯定(又は否定)側の立場をまとめたものをcaseと呼ぶ。一つの論題に複数のcasesが考えられる。喫煙禁止の論題なら、肯定側は喫煙者自身の健康の害、passive
smokingによる害、タバコの火による火災等を防ぐcasesが考えられる。いくつかを組み合わせて使うこともできる。現状には堪え難い問題は無くとも、肯定側の政策は大きな利益を産むから、得られるべき利益を得ていないことが問題であると論ずる作戦もある。
否定側にもいくつかの立場(作戦)がある。肯定側の論点を順に論破するstraight refutation。通常これと組み合わされるのが、不利益の論証。問題は認めて論題が規定する以外の対抗案(counterplan)の方が肯定側の案よりすぐれた解決策であると論ずる作戦もある。
双方とも立論(constructive speech)で自分達のcaseの全体を示し、主要論点を論証しておく。ディベートの後半になって急に主要論点を加えたり変更してはいけない。
3.4. Refutation and rebuttal
これがディベートの本領である。相手の議論を吟味し自分の議論を立て直すという過程を通じて、論理的思考を養い物事の真理に近づこうとするのである。
反論(refutation)は最初のスピーチ(肯定第1立論)以外のどのスピーチにも含まれる。原則として相手の主要論点に対する反論はそれが提出された直後の自分達のスピーチで行うべきである。沈黙は同意とみなされる。
反駁(rebuttal)という用語は二通りの意味で使われる。一つは、rebuilding の意味で、各チーム2回目以降のスピーチで相手の反論に再反論し自分達の主張を立て直すことである。もう一つは、ディベート後半のスピーチの名称で2nd
Negative Rebuttal Speechのように用いられる。Rebuttal speechesでは、立論で提出された論点について議論を深めるために、反論(refutation)と反駁(rebuttal)を行う。相手の議論の不備を指摘したり、自分達の論点に新しい理由付けや資料を提出するが、新たな主要論点を出してはいけない。また、双方最後のスピーチでは全体のまとめも行う。
ディベートにおいて効果的な反論・反駁をするには、事前の準備が欠かせない。相手の議論を予測し、それに対する自分達の議論を用意する。実際のディベートでは相手の議論に合わせて、用意した議論を組み合わせたり修正したりして発表する。このようなあらかじめ準備した議論を書いた原稿を裁判の用語からbrief(準備書面)と呼んでいる。次に示すのは、"Resolved:
That private high schools are better than public high schools"という論題でディベートをした時に、例として筆者が作ったものである。肯定側の、「公立高校の方が学費が安い」という論点に対する反論である。
Sample Brief for the Negative
| Negative: tuition (Affirmative: Public schools' tuition is cheaper.) I. Even if the tuition is more expensive in private schools, it is worth paying. Quality of education is more important than cost. II. The difference of tuition is small. The difference of tuition between private and public school is small in the total money parents spend on education. A. The difference is about 1,000,000 yen for three years. According to the Ministry of Education’s statistics in 1991, the total expenses parents pay are about 310,000 yen in public high schools and 640,000 yen in private schools. The difference is 330,000 yen a year. That makes 1,000,000 yen in three years. B. The total money parents spend on one child from
birth to university graduation is 24,000,000 to 60,000,000 yen. This information
comes from a study done by AIU Insurance, reported in the Asahi Shimbun
, April 6, 1991. |
3.5. Presentation
口頭発表の準備には、ディベートが始まる前にすることと、ディベートの中ですることがある。ディベートが始まる前には、肯定側第1立論の原稿の準備、前述の準備書面briefの用意、それらを読む練習などがある。ディベートが始まってからは、相手の議論を聞いてメモを取り、それに対する反論をメモしたり、用意してあるbriefを組み合わせたりして次のスピーチの準備をする。
肯定側第1立論はディベートの中で最初のスピーチなのでそのまま読めばいいような原稿を用意する。英文は分かりやすさが第一である。どうしても必要な専門用語など、生徒の理解の範囲を越える語彙などは一覧表を作って事前に指導したりする必要があるだろう。
英文を作るとき、日本語で完全な原稿を作ってそれを英訳しようとすると、生徒の日本語と英語の能力に差があるから、英語に直せなくなってしまう。和英辞典を使って一語一語置き換えても分かりにくい英語になってしまう。できるだけ自分達の知っている範囲の英語で表現することが、聞いて分かる原稿の作成につながる。
肯定側第1立論以外のスピーチは、理想的には用意したbriefを組み合わせたりしてその場で準備しなければならない。Briefは予想される論点毎に自分達の反論・反駁のポイントを書き、その理由付けや証拠資料を添付する。
議論の力を養成することに重きを置くならば、事前に肯定側と否定側のチームがスピーチを交換して反論のスピーチを作り、さらにそれを交換するというようにして、ディベート全体のシナリオを作ってしまうのも手である。今、筆者が大学の一、二年生の英語の授業でやらせているのもこの方法である。もし、一人の生徒がディベートでスピーチを発表する機会が、一、二回しかないならば、このシナリオ方式の方が、その場でスピーチをするよりも得るところが大きいだろう。その場で考えていいかげんなスピーチをするよりも、きちんとした議論を組み立てて用意したスピーチを発表するほうが望ましい。もちろん、とにかくその場で準備して発表することに意義があると考えるなら話しは別である。
3.6. Taking notes
反論・反駁を効果的かつ確実に行うために、ディベートではflow sheetと呼ばれる特別なメモの取り方がある。横長の紙を用意して(ノートの見開きを使ってもよい)、スピーチの数だけ縦長の欄を設ける。左端の欄に肯定側第1立論のポイントを箇条書きにする。一枚に書ききれない場合は、2枚目の紙を使う。否定側第1立論で、肯定側の論点に対する反論があれば、それを二列目の欄の対応するところに書き込む。反論がなければ空白になる(下の図では肯定側のII.A.に対応するところ)。位置がずれてくれば、矢印などでつないでおく。
ある論点について反論・反駁が繰り返されると、議論の流れは紙の上で左から右へ記録される。こうすると、ディベートの途中でも、最後でも、どの論点がどう反論されたか、また反論されていないか等が一目瞭然になる。
メモをとる時は略号や記号を使ってすばやく要点を書き留めなければならない。スピーカーが論点に番号や小見出しを付けていれば、それを利用する。肯定側と否定側の議論のメモは、違う色のボールペンを使うなどの工夫も役に立つ。
Resolved: That Japan should introduce a jury system in its court of law.
| 1AC | 1NC | 2AC | 2NC/1NR | 1AR | 2NR | 2AR |
| II. jury is good A. jury is neutral ev. XXXX |
biased 1. believe in police ev. XXX 2. assume guilty ev. XXX |
1. ev. biased 2. they believe lawyers |
---------> | jury is neutral | ---------> | neutrality jury is betterthan judges |
| B. jury is logical ev. XXXX |
people are emotional | logical Dr. Tanaka 89 Okinawa made logical decisions |
cannot generalize | neg. no reason
Okinawa people are Jpn. |
educated by Americans
Jpn not logical |
not true
no difference Jpn. and Okinawa
|
Flow sheet自体は、ディベート特有のメモの取り方だが、話を聞きながらメモを取ったり、自分が話す前に要点をメモして、それを基に話をするというのは、効果的なオーラル・コミュニケーションに大いに役立つ。
3.7. Cross-examination
フォーマットによっては、各立論の後に相手側からのcross-examination反対尋問が設けられている。主に3つの目的がある。(1)立論の不明確な点を確認する。(2)相手の議論の弱い点を暴く。(3)後で自分達が述べる議論に必要な情報を相手から引き出しておく。(2)と(3)は即興で行うのは難しいので、前述のシナリオ方式で発表させる場合は、事前に相手チームに質問を教えておく方が良い。
反対尋問では、質問をする側は質問だけが許され、議論をすることは許されていない。答える側はもちろん正直に答えなければならない。反対尋問は一見華々しく、いかにもオーラルコミュニケーションが行われているという気になるが、論理的な議論を秩序立てて組み立てるという目的にはかないにくい。注意しないと水掛け論の応酬のようになってしまう。あくまでも立論に対する「反対尋問」であることを忘れずに。
3.8. Delivery
何よりもまず、大きな声で教室の後ろに座っている生徒にも聞こえることが肝心である。発声練習をしてみるのもいいだろう。次に、話す速度。速くなり過ぎると聞いている方がついていけなくなる。一般的にはある程度早口の方が説得力が増すという研究もあるし、大学のクラブ活動で行われている競技ディベート(contest
debate, tournament debate)では、日米とも相当早口で行われるが、これは、競技という特殊な状況でのことで、教室に持ち込むわけにはいかない。大学生のディベート大会などを見学する場合は、この点を留意されたい。
発音や文法の間違いなどは、できるだけ無視するべきである。すぐ直したりすると、生徒は萎縮してしまうし、議論の内容よりも英語の「きれいさ」であるというメッセージを伝えてしまう。原稿の英語も添削しないほうが良い。すべての原稿を添削していたら教師の負担が大きすぎる。双方の第1立論のアウトラインもしくは原稿を点検し、論理や構成について助言するのがいいだろう。筆者は今年の授業では、いくつかのチームのものを教室で取り上げて良い点、悪い点を指摘するだけにしている。
4. ANALYSIS OF ARGUMENTS
ディベートでもスピーチでも論理的な議論を組み立てるにはその仕組みを知らなければならない。また、英語で(日本語でも)文章を書いたり読んだりする時、以下に述べるようなことに注意すれば、論理的・批判的思考能力の養成に役立つ。情報が氾濫する現代社会において情報の送り手にも受け手にも不可欠の能力である。
4.1. Structure of arguments
個々の議論 (an argument) は、単純化すると、話し手(書き手)が伝えたい結論である「主張 (claim)」、その根拠となる「証拠
(evidence/ data)」、と両者を結び付ける「論拠 (warrant)」から成り立っている。図解すると次のようになる。
例えば、"Japan's atomic power plants are likely to cause serious accidents because those in Three Mile Island and Chernobyl caused big accidents."という議論を分析してみよう。主張は、"Japan's atomic power plants are likely to cause serious accidents."で、証拠は、"Atomic power plants in Three Mile Island and Chernobyl caused big accidents."である。論拠は、"Japan's atomic power plants are similar to those in Three Mile Island and Chernobyl."という類推(analogy)に基づいている。この例のように3要素の一部が隠されている場合もあるので注意したい。
4.2. Evidence
証拠には文献からの引用などだけでなく、周知の事実等も含まれる。教育ディベートでは客観性を重んじるために、文献からの引用が重視される。証明した主張を証拠としてさらに別の主張を証明することもある。
証拠には主として、事実、統計、専門家の意見がある。より良い証拠を探したり、相手の証拠の問題点を指摘するために、次のような点に注目したい。
(1) Is evidence consistent with other evidence?
相互に矛盾する証拠があればどちらかもしくは両方が間違っているのではないかと疑う。
(2) Is evidence consistent within itself?
一つの資料や発言の中で首尾一貫しなかったり矛盾があれば問題である。
(3) Is the source of evidence competent?
著者はその情報を知り得る立場にあったのか、出典は権威があるものか、新しいか、中立か、等。歴史的事件の記録などはその時点に近い資料のほうが良い場合もある。
(4) Is the statistics sound?
調査方法は適切だったか、標本の数は十分か、抽出方法は適切か、質問の仕方はどうか、等。
(5) Is the expert credible?
問題によっては専門家の意見に頼らなければならない場合もある。発言している事柄の権威者か、偏見はないか、理由を挙げて意見を述べているか、等に注意。電力会社の技術者は原子力発電の専門家かもしれないが、安全性についての発言は利害関係による偏見があるかもしれない。
4.3. Warrants
自分の言いたい主張をそのまま表す証拠があるとは限らない。手に入れた証拠に基づいて自分の主張を証明する。その証拠と主張を結び付けるのが論拠(warrant)である。論拠には一般的な論理法則やそれ自体証明を要する主張がある。幾つかの種類の論拠を取り上げてみよう。
(1)analogy(類推)
前に例にした原発の議論は類推に基づいていた。「チェルノブイリとスリーマイル島の原発が重大事故を起こした」という証拠から「日本の原発も重大事故を起こすだろう」と主張している。論拠の「日本の原発と外国の事故を起こした原発が似ている」という類推は一概には受け入れられないので別に資料を使って証明しなければならない。類推に基づく議論では、比較するものどうしがが、その議論に本質的な点において似ていなければならない。原発の例では、原子炉の構造や安全対策が本質的に同じであることが重要になる。
(2)generalization(一般化)
複数の例から一般法則を導く。「A社の車Bはブレーキに欠陥がある」という主張を証明するために「車BはC氏のも、D氏のも、F氏のも、E氏のも、ブレーキに欠陥があった」という証拠があったとする。論拠は、「車Bは総て同じであろう」という規則性の仮定である。例が量的に十分か、典型的なものか、反例はないか、等に注意したい。
(3)cause-effect(因果関係)
原因から結果を予測する場合と、結果から原因を推測する場合がある。原因と結果の間に一対一の関係がない場合は要注意である。「習慣的に喫煙すると肺癌を引き起こす」という因果関係が別の証拠から証明されているとしよう。これを論拠に「A氏が習慣的に喫煙する」という証拠から「A氏は肺癌になるだろう」と主張できる。逆に「B氏が肺癌になった」という証拠から「B氏は習慣的に喫煙していた」という原因の存在は証明できない。肺癌の原因は他にもあるからである。
政策論題で問題の解決性を証明するのに因果関係を用いる時も注意が必用である。喫煙を禁止しても肺癌は完全にはなくならない。先程のA氏のような人は手遅れかもしれないし、喫煙以外の原因から生じる肺癌はなくならない。「新たに喫煙を始めたかもしれない人について、喫煙が原因で生じる肺癌を防げる」という主張はできる。
因果関係が証明できない事象の間にも統計的に相関関係がある場合、それを論拠にする議論も組み立てられる。
ここに挙げたような論拠に基づく証明は、数学や形式論理学の証明とは違い、「ほぼ間違いがない」とか「多分そうだろう」という確からしさが高いか低いかの問題になる。100%確実な証明もできないが、1つの反例で議論が完全につぶれてしまうとも限らない。ディベートの議論はこのようなものが多いので、"My
proof is perfect."とか"The opponent's argument is completely wrong."といった一方的な発言は要注意である。
5. ORGANIZATION OF SPEECHES
ディベートでは論理的で分かりやすいスピーチの構成が要求される。ライティングやリーディングでも扱うべきパラグラフやエッセーの構成と共通するところが多いので是非連携を図りたい。ここでは、肯定側第1立論を例にスピーチ全体の構成を説明し、次に、反論や反駁をする時の最少単位の構成を説明する。
5.1. 1st Affirmative Constructive Speech
スピーチ全体の構成は、introduction、body、conclusion、から成る。Introductionの中には論文(論理的なエッセー)と同じくthesis
statementに当たるもの、スピーチ全体の内容を予告するpreview (blueprintとも呼ばれ、ディベートではroadmapと呼ぶ)がある。Bodyは幾つかの主要論点からなり、さらに主要論点は小論点によって支えられている。各論点の構成はパラグラフに相当し、topic
sentenceとそのsupport/detailsから成る。Conclusionでは、各主要論点をまとめてスピーチを締めくくる。
スピーチを書く時はまずアウトラインを作って構成を吟味してほしい。例は論題"Resolved: That private
high schools are better than public high schools."の肯定側第1立論である。
Sample 1st Affirmative Speech Outline
| I. Private schools promote variety in education. A. Variety in education is good. 1. People have different opinions and values. 2. The education before World War II was responsible for the war. B. Private schools are freer than public schools. Public schools are controlled by the Ministry of Education. II. Private schools make more efforts to improve
themselves than public schools. (中略) III. Private schools are more active in international
exchange than public schools. (以下略) |
完成原稿は次のようになる。
Sample 1st Affirmative Constructive Speech
(
sample policy debate speeches
)
| We believe that private high schools are better than public high schools. There are three major reasons: (1) variety in education, (2) efforts to improve, and (3) international exchange. Let me explain them one by one. Reason number one. Private schools promote variety in education. Subpoint A. Variety in education is good. First,
people have different opinions and values. Subpoint B. Private schools are freer than public
schools. So they can give more variety in education. Private schools are
guaranteed by law to promote their founders’ spirits and individuality,
as is reported by the Asahi Shimbun, January 11, 1993: "On the other hand
public schools are controlled by the Ministry of Education through prefectural
board of education." Therefore, variety in education given by private schools
is good. (中略) For all these reasons, variety in education, efforts
to improve, and international exchange, private schools are better than
public schools. |
ディベートのスピーチでは、時間の節約のためにintroductionとbodyは非常に短いことが多い。聞いている人が論題についてよく知っていて、しっかりとflow sheetにメモを取っていることが前提になる。そうでない学園祭での模擬ディベート等の場合は、論題の導入や最後のまとめにもっと分量を割く必要がある。
5.2. Refutation Unit
反論・反駁する時に役に立つのがrefutation unitと呼ばれる短い単位の構成である。まず一般的な型を示す。
1. Locate the argument to attack.
2. Summarize the argument to attack
3. Give your response.
4. Support your response.
5. Conclude the response.
次の具体例は私立・公立学校の論題で、前回紹介した準備書面briefを利用している。こういった単位をいくつも組み合わせることで一つのスピーチが出来上がる。
About the negative team's third argument. They said tuitions
are cheap in public schools. I have two responses. First, quality of education
is more important. Even if the tuition is more important in private schools,
it is worth paying. Quality is more important than cost in education.
Second, the difference of tuition is small. (support部分省略. 上述3.4節のSample
Briefの内容参照 ) Thus, the difference is not important. Therefore the negative
cannot say public schools are better because of tuition.
6. DEBATE AND ETHICS
ディベートによって培われる議論の力は自分の立場を弁護し相手の議論を攻撃する強力な武器である。このような強力な武器の使用に伴う倫理的責任について少し触れておく。
ディベートで自分の本当の意見とは違うことを言うのは倫理的だろうか。ディベートでは肯定側・否定側という立場の代弁者として議論をしていることに注意したい。ディベートの目的は双方が最善の議論を戦わせて第三者に最良の決断をする根拠を示すことにある。参加者も意見と発言者を区別することによってとかく個人攻撃になりやすい論争の弊害を改めるようになる。ディベートを通じて問題をよりよく理解すれば、個人の意見もさらに良いものが形成される。
教育ディベートはある意味で現実から離れたゲームである。自由な議論を認めることで論理的・創造的思考を訓練する。しかし、ゲームの世界と現実を混同すると無責任な発言や議論の力の悪用につながる。白を黒と言いくるめるソフィストを育ててはならない。
教育ディベートでは文献からの証拠資料が重視される。利用にあたっては、出典の明示、文脈に沿った引用、引用と要約の区別、等、学術論文での利用と同等の規則を守らなければならない。
7. CONCLUSION
議論の力を養うためのディベートを駆け足で説明してきた。ディベートに限らず他の授業でも何らかの形で役立ち、生徒の論理的思考力・表現力が高められることを祈っている。
(copyright Narahiko INOUE, last modified 12/6/2002)